高3の話。
リア充になれず、部活に挫折し、途中で退部することを決めた僕。
劣等感と敗北感でプライドが粉々になった僕は、自分の自我を守るために究極のぼっちの道を歩む。
前回記事:ねくおた誕生記(9)部活と挫折と
前回までのあらすじ
高校生になり、リア充に憧れる
→ボウリングでスコア34
→カラオケでテンション上げられない
→リア充を諦め部活に打ち込む
→大事な試合直前で病気に
部活という居場所を失くす
最後の大会10日前に告げられた医師からの宣告。
それにより僕は、引退試合を棄権せざるを得ない状況に追い込まれた。
陸上部の個人種目。県大会に繋がる地区予選は、各校に出場人数の上限が定められている。
長距離を専門にしていた僕は、部内での競争に勝ち抜いて出場枠を獲得していた。
そんな中での、棄権。自分の代走は認められない。自分に負けた後輩は、走りたくても大会に出られない。
チームに迷惑をかけた申し訳なさと、自分の努力が何も報われなかった無力感から、僕は引退試合を待たずして退部するという決断をした。
試合の応援くらいはしたが、その後は自然と部活から距離を置くようになった。秋には駅伝の大会もあったが、もちろん参加は辞退した。
気付きと決意
退部を決意してから、自分の中での陸上に対する思いは驚くほど急速に冷めた。
そもそも何のために自分が部活をしていたかというと、自分の居場所を確保するためだけだったのである。
人と遊ぶことが楽しくなかったから、リア充になることを諦めたから、得意だった勉強で躓いたから、走るだけなら運動音痴の自分でも出来るから、仕方なく陸上をしていただけだったのである。
病気になって退部したことで、こうした自分の本心に初めて気が付いたのである。
部活を引退したとき、まず最初に思ったことは、大会に出られない悔しさではなく、何かに開放されたほっとした気持ちだった。
自分は周りの人間とは違う。優勝や勝利といった成功ではなく、安心や安定といった保身のためだけに努力する器の小さい男なのである。
自分の居場所を確保するため、僕は部活に限らず色々な努力をしてきた。しかし、何一つ満足いく結果に終わることはなかった。
リア充グループも、部活も、自分のクラスでさえも、自分に合った本当の居場所ではなかった。
だから僕は悟った。
そもそも人と関わることが向いてねえ
そして決意した。
もうどこのグループにも属さねえ
こうして僕はぼっちになった。
ぼっち生活スタート
自分の居場所を求めることを辞め、ぼっちとして生きる道を選んだ高3の1学期。
しかし、自分にはぼっちになる上でどうしても嫌なことがあった。
それは、
周りに自分がぼっちだと思われること。
色々あって人一倍劣等感が強かった僕は、とにかく周囲の目を過剰なほどに気にしていた。
何よりも嫌だったのが、自分が周りより劣っているばかりに、必要以上に気を遣わせてしまうことである。
思い出すのは、高1にあったボウリングイベント。
過去記事:ねくおた誕生記(7)ボウリングが下手過ぎて高校デビュー失敗
ドン引きするほどボウリングが下手だった僕は、周囲から過剰なほどに慰められ、優しくされた。
それによって全体は盛り下がり、結果的に僕は周りに大きな迷惑をかけてしまったのである。
基本的に、僕のクラスにはいわゆる『イイヤツ』が多くいた。
困っている人には救いの手を差し伸べ、弱い人を積極的に手伝い、無能な人間にも等しく接してくれるのが『イイヤツ』である。
恐らく僕が部活に挫折して居場所をなくし、劣等感から人間を避け、一人で殻に籠っている哀れで無能で弱い人間だと知ると、『イイヤツ』である彼らはこんな風に僕をフォローしてくれるのだろう。
こんな生活耐えられない
なので僕は絶対に自分がぼっちであることをバレるわけにはいかなかった。
必要最低限の会話はそつなくこなしつつ、相手の知らないところで自分には仲の良い友達はいると思わせつつ、プライベートは意外と充実していると思わせつつ、かといって自分の個人情報は詮索させず、適度に距離感を保ち、クラスメイト全員にとっての『仲良くはないけど普通に会話はする普通のヤツ』に徹する必要があった。
かなり難しかったが、もうすぐ受験で皆勉強が忙しいということもあり、割と上手く誤魔化すことが出来ていた。
しかし一つだけ難所があった。
ぼっちなら誰もが苦戦する魔の60分。
昼休みである。
地獄の昼休み60分
昼休みをいかに一人で自然に過ごすか。
ぼっち生活の中で、とにかく僕はこれに頭を悩ませた。
普通の10分休憩であれば、
教師による授業の延長 2分
教科書やノートの片づけ 1分
寝たふり 5分
次の授業の準備 2分
で余裕である。
しかし昼休みはこうはいかない。
さすがに60分も寝たふりするわけにはいかない。さすがに怪しまれてしまう。弁当を食べる時間が15分としても残り45分。1人でいるにはあまりにも長過ぎる。
さらに困ったことに、当時の僕の教室では『昼休みになると教室に人が誰もいなくなる』という怪奇現象が発生していた。原因は不明なのだが、恐らくみんな食堂に行ったり、隣の教室の友達に会いにいったりしていたらしい。
60分という無駄に長い時間。もし何もしなければ、自分だけが教室に一人取り残されてしまう。廊下から教室内は丸見え。一発で自分がぼっちだとバレてしまう。
基本セオリーでは『図書館に逃げる』という方法もあったが、僕の高校ではなぜか昼休みに誰も図書館を利用していなかった。どうやらこの学校に自分以外のぼっちは存在しないらしい。図書館にいるのは教師だけ。さすがに貸し切りでは居心地が悪い。
高校には『自習室』と呼ばれるスペースもあったが、これも行きづらかった。毎日非常に混雑しており、テーブルが全て4人テーブルであったことから複数人での利用が普通となっていたからだ。
妥協案として『誰かに話しかける』という方法もあったが、これも却下した。高3では既にある程度コミュニティが固定化されている。そこに自分みたいな根暗が割って入っても迷惑だろうと考えた。そもそも人と会話したい気分ではなかった。
こんな風に色々と案を考えたが、なかなか上手い案は見つからなかった。
しかし案が見つからなくても、昼休みは強制的に訪れる。
自分以外に誰もいなくなる教室。このままではぼっちがバレてしまう。
焦った僕は、背に腹は代えられないと最後の手段を選択した。
トイレに籠城する
昼休みモデルケース
トイレに籠る、といっても60分間ずっとトイレにいるわけではない。トイレから入るところと出るところを両方誰かに見られると、簡単に自分がぼっちだとバレてしまうからだ。ぼっちだからトイレにいるような人とは思われたくない。
ではどうするか。
ここからは、実際に高校生の自分が緻密に計画を立てた昼休みの過ごし方を紹介しようと思う。
12:00~12:03 授業の延長
通常の授業にくらべ、昼休み前の授業は延長時間が少し長い。そのため実際の昼休み時間は平均して57分程度になることが多かった。
僕は心の中で(授業もっと延長しろ!)と願うことが多かった。
12:03~12:04 授業の片付け
必要以上にゆっくり片付けながら周囲の様子をさりげなく伺う。
12:04~12:19 弁当(ぼっち)
座席移動が面倒くさい等の理由で、自席で一人で弁当を食べる人は自分以外にも一定数いた。そのどさくさに紛れながら、自分も1人で弁当を食べる。
周囲とペースを合わせながら、全員が食べ終わる少し手前のタイミングで完食する。
ここで出来るだけ時間を稼いでおきたいのだが、自然にこなすにはせいぜい15分が限界。
12:19~12:29 トイレに籠る
教室内の人間が少なくなってきたら、自分もふらっと教室を出てそのまま近くのトイレへ。
学校に存在する唯一の聖域(個室)、それがトイレである。
普段は食後すぐにトイレに籠るのだが、定期的に時間を少しずらしたり戻したりするのがポイントである。また、入る個室の位置も定位置ではなく日によってローテーションさせた。
「あれ、なんかこのトイレいつも埋まってんな」
対策である。
さらにトイレでの長時間の滞在は怪しまれる恐れがあるため、一回のトイレ時間は最長でも15分と決めていた。
12:29~12:34 学校を散策
トイレから出ると、自然な流れで取りあえず歩き始める。
行き先は人が少ない場所、かつ人とすれ違っても不自然ではない場所。
個人的にはゴミ捨て場付近や食堂裏の自販機が穴場だった。
12:34~12:44 トイレに籠る(二度目)
学校を散策した後は、最初とは場所を変えて別館のトイレにさっと入る。
別館のトイレは利用者が少ないので非常に快適。しかしそれだけ見つかった時は人の印象に残りやすい。
従って僕は予めトイレの候補として最適な5箇所をピックアップしておき、そこから毎日ランダムに1箇所選択して潜伏する、という方法を採用していた。
ちなみに当時はお腹が弱かったので、割と普通にうんちしていたことも多かった。
12:44~12:46 学校を散策(二度目)
別館のトイレから出た後は、遠回りしながら自分の教室を目指す。
周りに人がいないときはゆっくり、人がいるときは早歩き。
12:46~12:48 手を洗う
特に理由はない
12:48~12:50 次の授業の準備
授業開始12分前くらいになれば、ちらほらと人が教室に戻り始める。
自分も何食わぬ顔で教室に戻り、そして机の中を無駄にガサゴソする。
12:50~12:57 寝たふり
教室に人が増えたことで、ようやく伝家の宝刀『寝たふり』が発動できる。
この寝たふりは時間を稼ぐだけでなく、周りから「お前昼休み何してたの?」と聞かれるのを封じる役割も果たしている。
12:58~13:00 次の授業の準備
念のためもう一度する。
終わり。
その結果……
こんな胃が痛くなるようなぼっち生活を毎日続けた結果、
自分がぼっちだと気付かれることはなかった
たぶん。
もはや卒業前になると自分が何と戦っているのかよく分からなくなった。
そして自分が不器用なのかある意味で器用なのかもよくわからなくなった。
どこかのタイミングで「やっぱり友達は必要」みたいに思うかもとも予想したが、全くそんなことはなかった。
ぼっちでも全然いけてしまった。
余裕で耐えられてしまった。
集団に馴染めない弱さと孤独に耐えられる強さ。それを兼ね備えた自分だから、真のぼっちになれたのだろう。
受験勉強も終盤に入った高3の冬、僕はそんなことを考えながら1人で勉強をしていた。
……そのときだった。
右わき腹に感じる普通じゃない痛み。
原因はよくわかっている。僕を部活引退に追い込んだ憎い相手、体内にいる石だ。
受験の時期にこれはヤバいとすぐに病院に電話をする。しかし、予約を取れたのは1週間後だった。
病院に行くまでの一週間。猛烈な痛みは定期的に訪れた。
そのたびに床でうずくまる僕。
もちろん勉強なんてしている余裕はない。
一週間後、ようやく病院でレントゲンを撮ってもらえることになった。
その結果は……
大学入試二週間前のことだった。
つづく
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画像:© 私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!
コメント
ペア活動などはありましたか?
ありました。↓こんな感じで乗り切りました。
https://nekuota.com/hutarigumi
ぼっちが「二人組作ってー」で死なないための対策
1年くらい前から、読ませてもらってます。
ホームルームの前とか、移動時間とかの自由時間も結構苦痛ですよね。僕も、昼休みは、背中に冷や汗かきながらいつも弁当食べてました。
ほんとに時々、同級生が気を使って話しかけてくれるんですけど、全然話してないもんだから、口ごもってうまく話せなかったりしてました笑
今は大学生で、結局ぼっちになりましたが、それでもいいんだなって思えるようになってからは、逆にぼっちのいいところに目を向けて生活するようにしてます。
わかります。隠れぼっちだとあらゆる自由時間がストレスになりますよね。自分も大学生になってもぼっちの時間が長いですが、開き直ってからは割と気楽に生きられています。
何度もこのブログに来てもらえるなんて嬉しい限りです。最近は気まぐれで更新しているのであれですが、これからも思い出したときくらいにぜひ読みに来てください。