童貞目線から見た『天気の子』についての考察。
3年前の『君の名は。』考察記事との比較も行っていきます。
こんにちは。
海外旅行を空港沈没で中止させるほどの雨男、まつようじです。
日曜の早朝に一人、新宿のtohoシネマズで『天気の子』を観てきました。
『天気の子』『君の名は。』2作品のネタばれありの考察なので注意してください。
君の名は。との比較
今から約3年前、新海監督の前作『君の名は。』の考察記事で、僕はこんなことを書いた。
ーーー『君の名は。』は良くも悪くもラノベ的なんだと思う。上で説明したように、モテない童貞の汚い欲求を満たすような作りになっている。
ただ、この『童貞の汚い欲求』を、美しい映像で美化することで『ピュアな青春物語』に変換していることが、この作品の凄いところだと思う。
また、『君の名は。』が童貞に夢を与える作品である理由として、次のような要素を挙げていた。
- 運命の赤い糸的演出
- 女の子が好きになる理由が弱い
- 結ばれてからを描かない
夢を与えるこれらの要素が『天気の子』ではどう変化したのか。
この視点から、まずは考察していきたいと思う。
1. 童貞の欲求を美化してごまかす
→ごまかし切れてない
新海監督作品の魅力といえば、なんといっても美しい映像。
君の名は。ではそれが童貞の汚い欲求をごまかし、万人にウケる青春物語に変換することに成功した。
しかし今回の『天気の子』。これまでの美しい映像の中に、意図的に敢えて汚い部分のようなものを多く含ませているように感じた。
道端のごみや広告まで敢えて丁寧に描くことで、新宿の汚れた街並み、ゴミゴミした感じを表現している今作。
しかしこれにより、意図しているのかはわからないが、前作ではごまかされた童貞の汚い欲求が、今作ではごまかしが効かなくなっているように感じた。
汚い街で帆高の汚い童貞感が見え隠れするから、なんか普通にただの童貞にしか見えないのである。『君の名は。』の主人公瀧くんは、童貞臭い中にカッコよさがあったのに。
主人公への共感という点では、この汚いという要素は童貞にだけプラスに働いているような気がする。
(一方で、曲や見せ場見せ場での画面は変わらず最高に綺麗だった)
2. 運命の赤い糸的演出
→基本男が一方的に仕掛ける
自分にもいつか、運命の女の子が現れるかもしれない。そんな淡い希望をモテるモテないに関わらず全男子に与えた『君の名は。』
一方で、『天気の子』には、赤い糸的演出はほとんどない。
基本的に帆高が一方的にヒロイン陽菜を巻き込み、干渉し、そしてめちゃくちゃにしている。
はっきり言って今作の主人公、物語においてほとんどマイナスにしか機能していない。
ここが一番観ていてびっくりした。
もうほんとやることなすこと全部裏目に出てる。こいつが行動しなければ何の問題も起きなかった。会う人みんな振り回されて不幸になってる。衝動的、独善的な行動ばかりで何の頼りがいもない。そして終始ダサい。童貞臭さを美化してくれない。だけど行動力だけは異常にすごい。
しかしここに、『君の名は。』とは違った意味で童貞救済のメッセージが込められているように感じた。
詳細は後述。
3. 女の子が好きになる理由が弱い
→より弱い
心情描写の薄さは前回結構言われていた気がするが、今作はそれよりさらに登場人物の掘り下げが薄くなっていた。
ヒロインの陽菜なんて、あんなもんもう童貞の理想の具現化でしかない。なんも欠点がない。普通に良い子。ただただかわいい。それをちょっと性的な目で見る主人公……。この辺り、デートで来た女性の方がどう感じるのか気になる。少なくともデートムービーではない気がした。
しかし童貞視点でいうと、むしろそれでいいのである。
だってその方が感情移入しやすいから。
恋愛に関する具体的で生々しい理由があると置いてかれちゃうから。解説も凪パイセンくらいの感じでちょうど良いのである。
この辺りは純粋に、前作からより童貞向けにアップデートしてきたなと思った。
4. 結ばれてからを描かない
→やっぱり描かない
恋人ができるというゴールのその先を見せられても、童貞にはよくわからないので当然不要。
この辺の配慮はやはりさすが。
天気の子が童貞に与えるもの
3年前、劇場で『君の名は。』を見終えたとき、童貞は少しの夢をもらった。
『君の名は。』は、童貞に出会いの希望を持たせる映画だった。
もしかすると自分にも運命の人がいるのかもしれない。
いつかその運命の人と結ばれて幸せになるのかもしれない。
しかしそんな夢を抱く一方で、少しの不安が童貞の頭をよぎる。
ただ、もし仮に運命の人に出会えたとして、自分はその人を幸せにすることができるのだろうか? 瀧くんのようにヒロインを救い、村を救い、様々な苦難を乗り越えることができるのだろうか?
そんな不安を払拭できぬまま過ごすこと3年。
誰も幸せにすることができず、むしろ迷惑をかけ続け、未だ何の進歩もない童貞。
そんなとき、公開された『天気の子』
相変わらず綺麗な絵、素敵な音楽。しかし何かが少し違う。
童貞たちが日々を過ごす汚い東京が汚いまま描かれる。
主人公の童貞臭さが美化されることなく描かれる。
主人公帆高の行動がことごとく上手くいかない。そして正しくない。
主人公の抱く正義が、社会の正解と一向に交わらない。
周りの人間に散々迷惑をかけ、ヒロインにとっても正直邪魔なんじゃないかと思わせる。赤い糸にも世界にも見放されてそうな少年。
それでも主人公は最後まで自分の意思を貫き通し、さらに周りに超迷惑をかけ、最後は独断で東京を海に沈める。
ヒロインのため、いや、自分のために汚いもの、都合の悪いものを全部沈め、最後は結ばれてハッピーエンド……
(必要もなくヒロインの人生に干渉し、年下の母性に訴えかけて惚れさせ、都合良く能力を利用して金を儲けさせ、自分の犯した罪の代償は全然関係ない東京都民に償わせることになるけど、なんやかんやで)
ヒロインと結ばれて幸せになれるよ!
社会からはみ出た何も持たない童貞に、行動する勇気と許しを与えてくれる映画、それが『天気の子』なのである。
アイキャッチ画像引用:©2019「天気の子」制作委員会
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