ねくおた

ねくおた誕生記(6) 嘘で告白された中3の春。

ねくおた誕生記(6) 嘘で告白された中3の春。

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知らない間に自分に彼女ができていた話。

当然ながら、うまい話には裏がある。


前回記事:ねくおた誕生記(5) 修学旅行で吐いたゲロはカレーの味がした

 

舞台は中学の教室。

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突然の彼女宣言

山田さん
私、まつようじ君と付き合うことになったんだー

掃除の時間中、突然の山田さん(仮名)の発言に、クラス中に衝撃が走った。

まつようじとは僕のことである。スクールカースト底辺の陰キャ眼鏡だ。

ざわつく教室。驚くクラスメイトたち。

リーダー格の野球部男子どもが、僕の方へと群がって来た。

坊主1
おい、お前どういうことだよ!!
坊主2
説明しろ!!
モブ
そうだ! そうだ!

 

僕を問い詰める男たち。

まつようじ
えっ、ええっ!?

 

しかし、一番驚いていたのは他でもない僕だった。突然の山田さんの彼女宣言。僕はそのことを、事前に一言も聞かされていなかったのだ。

というかそもそも、僕は山田さんと付き合ってはいなかったのだ。

というかそもそも、僕は山田さんと話したことすらなかった

 

奇妙な学校生活

それからというものの、平凡だった僕の学校生活は一変した。

坊主1
ヒューヒュー!

休み時間に坊主にからかわれるようになり、

とおりすがりの女子A
まつようじじゃん、マジウケるw

廊下を歩くだけで見知らぬ女子に笑われるようになり、

友達
お前は彼女と遊んでろよ……

数少ない友人からは距離を置かれるようになった。

中学生にありがちな、『付き合っている人いじり』である。

本来ならリア充中学生が味わうべきであるこのいじりを、なぜか根暗である僕が受けることになったのだ。人目を避けてこそこそと過ごしていた僕が、だ。本当に意味が分からない。

自分は山田さんと付き合っていない。何なら会話をしたことすらない。僕は必死にそう主張した。しかし主張すれば主張するほど、僕が恥ずかしくて否定しているような空気になってしまった。そしてますます疑われるようになった。

一方、肝心の山田さんはというと、彼女は至ってマイペースだった。

山田さん
実は私から告白したんだー。まつようじ君はシャイだけどOKしてくれてー

クラスメイトの問いかけに、平然と嘘で返答する山田さん。クラスの男子にいじられても、まんざらでもないような笑顔を見せていた。

根暗グループに属する冴えない僕。普通に考えて、僕が告白されるなんてありえない。それはクラスの連中も重々承知だった。しかし山田さんの意味深なセリフにより、中々確信を持てないでいるような様子だった。

僕へのいじりはしばらく続いた。

彼女の狙いは何か? どうして嘘をつくのか? 僕にはさっぱり分からなかった。

そしてこのときもまだ、僕は山田さんと一言も話したことすらなかったのだ。

 

山田さん

山田さんは、中2のときから同じクラスの女子だった。

クラス内では目立つグループに属しており、行事があれば率先して仕切りたがるようなタイプだった。

正直顔はそこまで可愛くなかった。そんなにモテてもいなかったように思う。僕自身、今まで山田さんに何の関心も抱いていなかった。

しかし中3男子の思考回路とは単純なものである。今回の事件をきっかけにして、僕は山田さんを意識するようになっていた

どうして山田さんはあんなことを言ったのだろうか? もしかして自分のことが好きなのだろうか? ……いや、そんなはずがない。彼女に好かれるようなことをした覚えは一度もない。小学校の修学旅行でゲロを吐いて以来、僕は出来るだけ目立たないように生きようと決めていた。引っ越しをしたから山田さんはこの事実を知らない。だがしかし、僕の暗さやダサさは十分承知のはずだ。……いや、いやまてよ。だがしかし、しかし、もしかしたら自分には自分が気が付かないだけで、異性に好かれるような魅力があるのかもしれない。もしかすると山田さんは、僕の気を引きたくてあんな嘘をついたのかもしれない。いや、まてよ………

なんてことを延々と考えていた。

山田さんの虚言のせいで酷い目にあったが、そんなことはもう忘れていた。彼女がいるといじられることにも、なぜか優越感すら感じるようになっていた。彼女が本当にいるわけでもないのに、自分に彼女がいるかのような錯覚を味わうようになっていた。今思うと貴重な経験だったように思う。

しかしこのときもまだ、僕は山田さんと一言も話したことすらなかったのだった。

平気で僕との嘘話をでっちあげる山田さんだが、僕に直接話しかけることは一切なかった。そして僕は僕で、自分から山田さんに話しかけることは一切なかった。中学の頃からコミュ障だった。

 

結末

山田さんが嘘をついてから数か月。夏休み前になると、僕に関する噂話はもう完全に消えてなくなっていた。彼女がいないと否定する僕があまりにもキモかったからだろう。もう誰も、僕と山田さんが付き合っていると信じなくなった。

山田さんは山田さんで、いつの間にか一切僕に関する嘘話をしないようになっていた。僕のことなど忘れたかのように、今まで通り普通に生活している様子だった。

一方僕は、騒ぎが収まった後も、未だに山田さんのことを意識していた。もしかすると実は僕のことが……なんてことを、まだ延々と考え続けていた。

しかしこのときもまだ、僕は山田さんと一言も話したことすらなかったのだった。

 

結局のところ、僕は中学を卒業するまで一言も山田さんと会話をした記憶がない。

そしてあのとき山田さんがどういう意図で付き合っているという嘘をついたのか、それは分からずじまいだった。

夏休みに公園のベンチで山田さんと坊主1がいちゃついているのをたまたま見た

が、詳しい真相はよく分からなかった。

山田さんが嘘をつく前、山田さんと坊主1が付き合っているという噂があったらしい

が、真相はよく分からなかった。

山田さんが僕との噂を作ったことによって坊主1との噂が誤魔化されたのかもしれない

が、僕にはよく分からなかった。

 

 

僕にはよく分からなかった。

 

 

坊主1
ヒューヒュー!

 


余談だが、それからというものの、僕はどうしようもないモヤモヤ感を解消するために、狂ったように受検勉強をした

おかげで僕が偏差値70以上の高校に入学するのだが、それはまた後の話である。

 

つづく

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