スクールカースト最底辺の鈴木(仮名)。彼を庇ったら標的が自分に変わった話。確か小4の冬。
小4の掃除の時間のときだった。
突然、クラスのボス女子がこんなことを言い出した。
一瞬凍る教室内の空気。
しかし次第に「い、いいねー……」と女子たちの声が上がる。
こうして今日も、ボス女子による恐怖支配が始まるのであった――
女子に支配された教室
当時、僕の所属する4年2組の教室ではスクールカーストの頂点に女子が君臨していた。
その女子のことをボス女子と呼ぶことにする。
そのボス女子はとにかく悪知恵が働いた。
表では真面目を装って女教師からの信頼を得、
裏では本性を現してやりたい放題していたのだ。
僕を含めクラス内の男子は、情けないことに誰もボス女子に逆らうことができなかった。
そして今日、ボス女子が考えだした新たな遊び、【いじめの対象をみんなで決めるゲーム】がスタートしたのである。
標的は鈴木
先生が来ないか廊下を確認しながら、皆に話しかけるボス女子。
ボス女子の返答に誰も答えない。
皆は慎重に様子を伺っている。
そして誰もが思っている。自分だけは選ばれたくない。
誰が誰の名前を言うのか。
皆がハラハラしている中、ボス女子の親友の下っ端女子が、遂に一人の男子の名前を言った。
鈴木。それは数少ない僕の友達の名前だった。
鈴木は今日、体調不良で学校を休んでいる。
僕はぐっと唇を噛んだ。
標的が決まってホッとしたのか、他の生徒たちも次々と鈴木の名前を言い出した。
一気に場の空気がアンチ鈴木の空気に変わる。
話題は鈴木がやらかした事件、【鈴木リコーダー事件】へとシフトしていった。
鈴木リコーダー事件
鈴木リコーダー事件とは、鈴木がクラスの女子を泣かせた事件のことである。
鈴木はリコーダーを吹くときに下から唾液が垂れてしまうという残念な癖を持っていた。
ある日鈴木が垂らした唾液がたまたま女子の机の上にかかり、その一部始終をクラス全員に見られてしまったのである。
その日から、鈴木の地位はスクールカースト最底辺確定。
基本的に女子からは嫌われ、話しかけても無視されているような状況だった。
そして今日。ボス女子の提案がトリガーとなり、遂に教室内での鈴木の立場は完全になくなってしまったのである。
鈴木を助けるかどうか
皆が次々に鈴木の陰口を言う中、僕はこの流れにのるかどうかをずっと考えていた。
鈴木は僕の数少ない友達の一人だ。
僕たちは休み時間、毎日自由帳にドラクエのマップを作って遊んでいた。とても楽しかった。
そんな彼を裏切ってしまってもいいのだろうか? ……いや、いいはずがない。
しかしここで反抗すると、ボス女子に何をされるかわからない。
標的が自分に変わるかもしれない。
どうする。
どうする。
どうする……?
考えがまとまらないまま、いよいよ僕はボス女子に話しかけられた。
万事休す!
嫌いな人
友をかばうか裏切るか。
考えに考えた結果、僕はある一つのアイデアを思いついた。
僕はピンチになったとき、思考力が普段の2倍になるという特殊能力がある。
前回ではうんこ漏らしがバレそうになったが、この特殊能力を生かして見事にピンチを切り抜けたのだった。
そして今回も、僕は思いついたのである。
友を裏切らず、ボス女子に歯向かうこともなく、それでいて話の話題をさりげなく変えるとっておきの返事。
それは……
そう、金正〇だ。
ボス女子は言った。「一番嫌いな人は誰か」
彼女はクラス内の誰かとは言っていないのである。つまりクラスメイトの名前を言う必要は最初からなかったのだ。
クラス外の人間の名前を挙げれば、誰も傷つくことはない。
ボス女子に歯向かったことにもならない。
さらに僕の狙いはもう一つある。
〇正日は、当時日本海にミサイルを落としていた話題の人物である。
時事ネタを生かしたウィットに富んだ返答だ。
これによりクラスの話題を別の方向に誘導させ、皆の意識を鈴木から遠ざけようとしたのである。
土壇場で思いついた僕の秘策。
しかし、結論から言うとこれは大失敗に終わってしまう。
全然通じなかった。
スクールカースト底辺に降格
ボス女子の機嫌を損ねてしまった僕。
鈴木をかばうことには成功したものの、予想通り標的は僕へと移行した。
それから数か月の間、僕はクラスからちょっとした嫌がらせを受けることになる。
女子全員から無視されたり、
シャーペンを壊されたり、
女子トイレに閉じ込められたり、(今思えばご褒美)
まあ嫌がらせと言っても大したことのないものばかりだったのだが、やはりいじめられるのは辛いものである。
僕が今でも異性と話すのが苦手なのは、もしかするとこの経験が始まりになっているのかもしれない。
僕が鈴木をかばった次の日からボス女子による嫌がらせが始まったのだが、鈴木は今でも僕がいじめられた本当の理由を知らないだろう。
僕の小さな反抗は、結局誰からも評価されなかった。
というか誰にも言わなかった。僕は金〇日の名前を言っただけだ。本当の狙いを言ったところで誰も信じてくれはしない。
しかしそれでもかまわなかった。
自分の中にある正義を守ったことに対する誇り。それさえあれば十分だったのだ。
ただ、一つだけ気になることがある。
鈴木が一日ぶりに登校したとき、僕はクラスメイト全員から軽く無視されていた。
鈴木も僕を無視した。
何かを察したのか無視した。
ナチュラルに無視した。
まあボス女子が怖いのだろう。仕方がない。
しかし僕はその日一度だけ、鈴木に向かって助けを求めた。
「今日も一緒にドラクエ作ろうぜ!」
さりげなくそう話しかけた。
そのとき鈴木が僕に向けた顔、あの顔を僕は10年経った今でも忘れられない。
あの優越感たっぷりに僕を見下す鈴木の顔を……
つづく
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