ねくおた誕生記(3) うんこ漏らしたけど白ブリーフに救われた話

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小学校2年生の冬。

僕はうんこを漏らした。


やばい

事件は登校途中に発生した。

モリモリモリッ……。

それは一瞬、本当に一瞬の出来事だった。

自分の肛門から何かが出たような感覚。

そして今朝からの腹痛が一瞬にして和らぐような何とも言えない解放感。

そして、少し後に訪れる尻のぬくもりと違和感。

……そう、僕はうんこを漏らした。

 

パニック

僕はうんこを漏らした。

あまりに突然の出来事に、僕はなかなか状況を受け入れることが出来なかった。

慣れてきた小学校の生活。繰り返される何気ない日常。

そんな僕の平凡な生活が、一瞬にして崩れ落ちたような感覚に陥った。

最悪だ。

今、僕は集団登校で一列になって歩いている。

前には同じ学校の下級生、そして後ろには上級生の男子が歩いている。

僕と上級生との距離はわずか数メートル。

上級生が僕の異変に気付くのは時間の問題だった。

 

僕は絶望した。

ダメだ。きっとバレる。

そしてバレれば絶対に笑われる。

そして必ずいじめられるだろう。

頭に浮かぶ最悪のケース。

僕は全てを諦め、ただその時が来るのを待ちながら歩いていた。

しかし、ここで一つの奇跡が起きた。

学校に到着するまで、誰も僕の異変に気が付かなかったのだ。

 

幸運

うんこを漏らしたのにも関わらず、後ろを歩く上級生にバレなかった奇跡。

この奇跡は、複数の要素が複雑に絡みあって発生した。

まず一つが、その日は風が強かったということ。

僕の尻から発せられる臭いは風によって発散され、大幅にその威力を軽減させていたのである。

そしてもう一つが、うんこがバナナ状だったということ。

一般的に、人間が漏らすうんこは下痢タイプが多い。

もしも下痢状のうんこを漏らしていれば、たちまちズボンにまで染みわたり大惨事になっていたことだろう。

しかし、僕のうんこは出てきたあともその形状を維持し、僕の灰色のブリーフの中にしっかりととどまっていたのだ。

これらのことから、僕は奇跡的にこのピンチを乗り越えたのだ。

 

どうする?

なんとかバレずに学校まで辿り着いた僕。

しかし、ここからどのように行動すればいいのかが分からなかった。

というかそもそも漏らした時点で家に帰るべきだったのだが、小2の僕には『学校をさぼる』という選択肢が思いつかなかった。

とにかく誰にもバレたくない。本当にその一心だった。

肛門に意識を集中させながら校門を通り、ゆっくりと下駄箱へと向かう僕。

頼む、誰も話しかけないでくれ! 誰も僕の方に近づかないでくれ!

そう祈りながら、ゆっくりと下駄箱で上履きに履き替える。

そして階段を上って教室に向かおうとして、僕はぴたりと足を止めた。

このまま教室に入ったら確実にバレる

なぜなら僕のパンツの中には大量のうんこが眠っているからだ。

密室空間に入ってしまえば、確実に臭いが充満してバレてしまう。

 

なぜかこのとき僕の脳内では、

とりあえずトイレに行く

という選択肢が微塵も思い浮かばなかった。

トイレでうんこするといじめられる

↑この考えを無意識の中で持っていたので、僕はどうしてもトイレで処理をするという発想に至らなかったのである。

既にうんこを漏らしているのにトイレに行くのを拒む。

今考えると明らかにおかしい。

 

とにかく教室には行けない。

トイレの個室に入るのもまずい。

廊下であたふたする僕は、それはもう本気で焦っていた。

次第に固くなるパンツの中のうんこ。

そして次第に増えてくる人。

やばい。このままではやばい。

今度こそ本当にバレてしまう。

このとき僕は、生まれて初めて本気で神さまに祈った

(この神さまは、今後僕がうんこを漏らしたりするたびに度々登場するようになる)

そして祈りが効いたのか効かなかったのか、僕の目の前にある部屋が出現した。

必要とする人の目の前に現れ、救いの手を差し伸べてくれる部屋……

そう、保健室だ

 

保健室

「あ、あの……すいません」

保健室に入り、控えめに声を出す僕。

中にいたのは、もう数十年はそこで働いていそうなベテランのおばちゃんだった。

「あら、どうしたの?」

優しく尋ねてくるおばちゃん。

しかし、僕は素直に打ち明けることが出来なかった。

「あの……その、お腹が痛いというか、その……」

曖昧に言葉をぼかす僕。

しかしベテランのおばちゃんは、それだけで僕の伝えたいことを察したらしい。

「奥にシャワー室があるわよ」

おばちゃんはそれ以上は何も聞かず、僕のパンツの被害状況を確認することもなく、淡々と僕をシャワー室へと案内してくれた。

救われるような思いがした。

 

完璧な対応

その後僕は服を脱ぎ、シャワー室へと入った。

パンツの中は想像以上にひどい状態だったが放置し、シャワー室の前に置きっぱなしにした。

とりあえず汚くなった自分の尻を全力で洗う。

ここまでの間、保健室のおばちゃんは僕に何も話しかけてこなかった。

ただ僕にシャワー室を案内して、それでおしまい。

一言も「うんこ漏らしたの?」とは聞いてこなかった。

僕にはそれがありがたかった。

 

シャワー室から出ると、そこには僕のうんこが染みついたパンツとズボンは無くなっていた。

代わりに置いてあったのは、白ブリーフと茶色のズボン。

どうやら『生徒がうんこを漏らしたとき用の完璧なマニュアル』なるものが存在しているらしい。

僕は無言でそのブリーフとズボンを履いた。

そしておばちゃんに案内されるままベッドで横になった。

初めてサボる学校の授業。

慣れない白ブリーフの感触。

僕は自分の無力さと情けなさで茫然とした。

 

人はうんこを漏らすことで自分の無力さを知り、そして少しだけ強くなる。

それを経験した初めての時が、この小2の冬だったのである。

 

戦いは終わらない

結局そのまま午前中をベッドで過ごした僕。

いくらかメンタルも回復したので、僕は授業に復帰することにした。

おばちゃんに一言お礼を言い、保健室を後にする僕。

汚れたズボンとパンツは、放課後に取りにくるように言われた。

どうやら洗って返してくれるらしい。

 

結局保健室のおばちゃん以外、僕がうんこを漏らしたという事実は誰にもバレなかった。

そして事後処理も完璧に終わった。

友達には、体調不良(嘘は言ってない)と誤魔化しておいた。

誰も僕の言葉を疑わなかった。

取り戻した普段の生活。また繰り返される日常。

これでやっと戦いが終わる……。

しかし、まだ戦いは終わっていなかった。

事件は放課後の掃除の時間に発生した。

 

バレそう

不幸というものは連鎖する。そして、乗り越えたと思った瞬間が一番危ない。

うんこを誰にもバレずに処理出来た僕は、それはもう完全に油断し切っていた。

だから掃除場所が保健室だと知ったときも、そこまで事の重大さに気付けないでいた。

 

当時の僕の友人、山田(仮名)と共に、保健室の掃除を開始する僕。

ピンチを救ってくれたおばちゃんは不在で、保健室には僕と山田の二人だけだった。

何気ない雑談をしながら、適当に保健室の掃除をする僕と山田。

 

「なあ、まつようじ、お前どうして午前の授業サボってたんだ?」

「さぼりじゃないよ。体調不良だよ。腹が痛いから保健室のベッドで寝ていたんだ」

「ふーん……」

 

納得したかのような返事をする山田。

そう、例え保健室に入ったとしてもバレるはずがない。僕がうんこを漏らしたという事実に。

だって証拠がないのだから。

証拠なんて何も……。

 

「なあ、まつようじ……」

「なんだよ」

「このパンツとズボンって、もしかしてお前の?」

「え?」

 

山田が指差すその先、そこには小さな物干し竿に、僕のパンツとズボンが丁寧に干してあったのだ。

 

僕は目の前が真っ暗になった。

大ピンチ

「え?」

僕の一瞬の動揺を見破ったのか、山田の顔が突然豹変する。

「あれれぇー、おかしいなあ。どうしてまつようじくんのパンツがこんなところに干してあるのかなあ?」

そう言って、箒の先で僕のパンツをつつく山田。

目が完全に悪役の顔だ。僕がうんこを漏らした。山田はそう確信している。

僕はとっさに誤魔化そうとする。

「い、いやいや違うし! それ僕のパンツじゃねえし!?」

しかし山田には通用しない。

「はあ? 俺がお前のパンツを知らないとでも?」

自信満々にそう話す山田。

パンツを見られた相手が悪かった。山田のその観察力は普通ではない。

そして不幸にも、僕と山田は普段から『今履いているパンツの色を当てるゲーム』をして遊んでいるほどの仲だったのだ。

当然、お互いが相手の持っているパンツの種類、色、形まですべて暗記している。

山田が瞬時に僕のパンツを識別できたのも不思議ではない。

さらに、僕は不用意にも、

『保健室で寝ていた』

『腹が痛かった』

というトップシークレットの一部を自ら教えてしまっていたのだ。

腹痛+保健室+パンツ=ウンコ漏らした

小2なら、これくらいの方程式は簡単に解ける。

自らの油断が最悪のピンチを招いてしまったのである。

まさに万事休すだった。

 

逆転の切り札

僕が動揺すればするほど、山田の攻撃は勢いを増していった。

「ほらほら、正直に言えよ! 本当は腹痛だけじゃないんだろ?」

「正直に言えば楽になるぜ。な? 誰にも言わないから!」

もうとにかく人の弱みを握れたことが嬉しくて仕方がないらしい。

山田は僕に自白させようと必死だった。

しかし、僕は頑なに自白しなかった。

山田の猛攻に耐えながら、僕は逆転の方法を模索していた。

 

落ち着け、落ち着くんだ僕。

絶体絶命の大ピンチ。だが、僕が漏らしたと完全にバレたわけではない。

何か、何か方法があるはずだ。

うんこを漏らしたことを気付かれずに、この場を乗り切る方法が!

何か、何か……。

「!!」

この瞬間、僕の思考回路は小2とは思えないほど目まぐるしく動いていた。

そして無数にある行動パターンの中から、僕はみつけたのだった。

この状況を打開する、たった一つの逆転の切り札を。

 

デスゲーム

以下、会話形式。

僕: 「なあ山田……」

山: 「なんだよ」

僕: 「いきなりだけど、いつものパンツ当てゲームやらないか?」

山: 「はあ? なんだよ急に」

僕: 「お前が俺のパンツの色を当てる」

山: 「いやいや、急に話進めんなよ。まずは俺の質問に答え……」

僕: 「ゲームに負けたら、僕はお前の言うことを何でも聞く。お前の質問にも正直に答える」

山: 「……それは本当か?」

僕: 「ああ。ただし、お前がゲームに負けたら、僕の命令に何でも従ってもらう」

山: 「本気か? ……それだけこのゲームに勝つ自信があるのか?」

僕: 「ああ、そうだ。お前は絶対に、僕のパンツの色を当てることが出来ない。絶対にだ」

山: 「ははーん、分かった。わかったぞ。お前のその自信の理由が! いいだろう。勝負してやる」

僕: 「本当か?」

山: 「ああ。本当だ。お前の考えは完全に見切った。逆にお前こそいいんだな? お前がゲームに負ければ、クラスの前で真実を打ち明けてもらうぞ」

僕: 「あ、ああ。構わない」

山: 「よし。交渉成立だ。漢に二言は?」

僕: 「ない」

山・僕: 「「決闘!!」」

 

パンツの色は

山: 「本当にいいんだな? 当てちゃうぞ」

僕: 「ああ。言ってみろ」

山: 「ふん、なら言ってやろう。保健室に干してあるパンツ、体調が悪かったという事実、そして絶対に当てられないというお前の自信。この3つから推理して、お前は今日、うんこを漏らした! だからお前は今、パンツを履いていない! だから答えはノーパンの透明だ!!」

僕: 「ファイナルアンサー?」

山: 「……ファイナルアンサー」

僕: 「ふふふ……」

山: 「な、何がおかしい!」

僕: 「なあ山田、お前は一つ、重大な勘違いをしている」

山: 「な、なんだ!」

僕: 「僕がいつ、うんこを漏らしたなんて言った?」

山: 「はあ? あの灰色のパンツはどう見ても……」

僕:  「あれは僕のではない」

山: 「なんだって?」

僕: 「お前はたまたま干してあった僕と同じタイプのパンツを見て、たまたま勘違いをしただけなんだよ。よって僕はノーパンでもないし、うんこを漏らしてもいない」

山: 「う、嘘だ! そんなはずない。だってお前は明らかに動揺していた……」

僕: 「ならば確認してみるか? 僕が今履いているパンツの色を……」

山: 「(ごくり……)あ、ああ。見せてくれ」

僕: 「いいだろう。僕が今履いているパンツの色。それは……

 

白色だ!!

山: 「な、なんだって!? あ、ありえない……だってお前はあれだけ白ブリーフをダサいと言っていたじゃないか。それにここにある灰色のパンツは……」

僕: 「だから言っただろう。偶然だって。今日はたまたま白ブリーフの日で、たまたま灰色ブリーフが保健室に干してあったんだ。白ブリーフを見せるのが恥ずかしいから一瞬動揺したけど、これは逆にゲームに勝つチャンスだと思ってね。お前に僕がうんこを漏らしたと思わせたのは全て僕の作戦なんだよ」

山: 「な、なんて奴だ……」

僕: 「山田、お前の負けだ。さて……何の命令に従ってもらおうかな……」

山: 「や、やめてくれ……!」

僕: 「(ふん、全て計画通り……)」

 

こうして、僕は小2最大のピンチを乗り切ったのであった。

 

 

追記

あれから結局、

白ブリーフを履いてることで軽くいじめられた

のだが、うんこがバレるよりは数百倍マシだったので何とも思わなかった。

この後も人生であと二回ほどうんこを漏らすのだが、それはまた別の話。

 

つづく

 

タグ:ねくおた誕生記

画像:© 銀魂


コメント

  1. 僕はやばい方
    さらさら

  2. どんまいです……