今、何かと話題の【PlayStationVR】
この商品が発売されることで、私たちにとってのゲームと現実との距離感が、ますます近づいてくるように感じます。
それに合わせて……というわけでもないですが、先日『クラインの壺』を読みました。
その感想を書こうと思います。
あらすじ
ゲームの原作を作ったことから、ヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』のテストプレイヤーをすることになった主人公、上杉彰彦。アルバイトでやってきた美少女、梨紗と共に仮想現実の世界を体験する上杉だったが、徐々にある異変に気付くことになる……。
作者:岡嶋二人
日本の推理小説家。名前の通り(?)、実は二人で岡嶋二人という一人の名前を名乗っている。井上泉(ペンネーム:井上夢人)と徳山諄一の二人で岡嶋二人。
コンビで小説を執筆するのは、日本ではとても珍しいように思う。
他の作品には
『5W1H殺人事件』
『99%の殺人』
『そして扉が閉ざされた』
などがある。
感想(ネタバレ注意)
率直な感想としては、とても面白かった。
長編小説だが、物語上無駄な要素が全くない。そして、難解になり過ぎることもない。だからといって薄っぺらい話かと言えば全然そういうことはなく、SFとしてもミステリとしてもガッツリ楽しめるような物語になっている。
そんなバランス感覚の良い名作であるように感じた。
SAOとの比較
テストプレイヤ―としてフルダイブ型ゲームをプレイ。あらすじのこの情報だけから考えると、僕はどうしてもラノベの『ソードアート・オンライン』を連想してしまう。
本作品を読み始める前、どうしてもアニメで観た『ソードアート・オンライン』の印象が抜けなかった。
突然デスゲームが始まったりするのかなあ。仮想空間で女の子とイチャイチャするんだろうなあ。
などと、SAOのイメージを引きずりながら読んでいたのである。
しかし、実際は全く違った。
まずゲーム内の設定がまったく面白くない。というか全く頭に入ってこない。モキマフ共和国? なんだそれ。そんな設定のゲームが売れるの? ……っていうかこのゲーム世界で面白い展開が起こるの?
と、序盤は色々と変な心配をしてしまったのだが、そんな心配はまったく必要がなかった。まったく見当違いの心配だった。
ストーリーは予想を外れてゲームではなく現実世界をメインに進行していくし、
かと思えば現実世界がゲーム世界だという事実が判明するし、
一方でゲーム会社の真の正体が明らかになるし、
かと思えばそれもゲームの設定だったと判明するし、
だからといって判明した事実が必ずしも真実であるとは限らないし、
気晴らしに女の子とイチャイチャしても、それすらも真実であるとは限らないし……
まあ……、要はとても面白かったということが言いたい。
衝撃のラスト
印象に残っているのは、やはりラストのどんでん返し返し返し。
現実かと思えばゲーム。ゲームかと思えば現実。……いや、ゲームか現実かわからない!
この何重にも仕掛けられた叙述的トリックが凄い。
この世界はゲームかもしれないし、ゲームにみせかけた現実かもしれないし、ゲームにみせかけた現実にみせかけたゲームかもしれない。
現実か虚構か分からなくさせる作品は割と多い。
けれど、ここまでシンプルなストーリーで、ここまでの衝撃を与えられるのは凄いなあと思った。
描写や設定に全くの無駄がない。作中のすべての要素が、現実と虚構を曖昧にするための装置として機能している。
……すごい。
発狂する主人公
最後のシーンで、主人公は自殺をしようとカミソリを握る。自分が死ぬことで、今の世界が現実かゲーム世界かを判別しようと考えたからだ。
しかし、いくら自殺をしたとしても、主人公は自分の今いる場所が現実世界だと認識することは出来ない。
なぜなら自殺をして別の世界で目覚めたところで、目覚めた世界が現実世界だとは限らないからだ。
(頑張って作った)
・仮に自殺が成功した場合、さっきまで生きていたところが現実世界。
・自殺に失敗して別の世界で目覚めた場合、先ほどまでいた世界がゲーム世界だと確定する。ただし、だからといって今いる世界が現実世界だと断定できる証拠は何もない。
一度プレイすれば最後、死ぬまで現実とゲームの区別がつかなくなるゲーム……恐い。
この世もゲーム世界かもしれない
本作品は当然フィクションである。しかし、もしかしたらフィクションでないのかもしれない。
僕たちが今いる世界は、本当はゲーム世界なのかもしれない。
僕たちは元の世界での記憶を消され、そしてこの世界というゲームをプレイしているのかもしれない。
僕たちは全裸で寝ているだけなのかもしれない。
そしてこのゲームを止める方法はただ一つ。死ぬことだけ。
なんというクソゲー……
コメント
ドラムの上に乗った車には慣性が働きません。
ブレーキを踏んでも前のめりにならないし、スピードを速めても後ろのめりになりません。
上下の振動は再現できても、前後の動きは再現できないので、実際にこの仕組みの車に乗るとすぐ違和感を覚えます。
主人公が違和感を覚えなかったということは、これは壺の中で再現された仮想の世界。
ということはシナリオ1が成立します。
研究所は相模原にあることになります。
すみません、上記は仮説2の書き間違えです。
なるほど……慣性については考えたことなかったです。